【手話通訳士としての心構え】(私見)2011年01月16日
1)英語・フランス語など他の言語通訳と同様に、言語のプロとしての自覚をもつこと。
手話通訳の世界は、「手話奉仕員」という制度もあり、きちんとした職業というより、ボランティア的色彩が強かったと思います。でも2006年12月に国連総会において「障害者権利条約」が採択され、手話は言語であると認められました。
ということは、英語やフランス語などの通訳と同じ立場だと思います。通訳というのは、異なる言語を用いる人たちの間に立って、意思の疎通を図る仕事です。通訳する二つの言語について、きちんとした知識および技術をもっていないと、双方に多大なる迷惑をかけるだけでなく、通訳をする対象者の権利を守れなくなることもあります。
2)聴覚障がいは、「情報障がい」および「コミュニケーション障がい」であることを認識すること。
障がいには様々な種類があります。肢体不自由・視覚障がい・内部障がいなど、それぞれの立場ごとに様々なご苦労があると思います。しかし、聴覚障がいは、他の障がいとは決定的な違いがあります。車いすの方でも、目が見えない方でも、まわりの方とのコミュニケーションがとれます。私の母は車いすですが、私と全く問題なくコミュニケーションをとることができます。
しかし聴覚障がい者の場合、特に生まれつき、または3~4歳の言語獲得期以前に失聴したろう者の場合、まわりの方が手話がわからないと十分なコミュニケーションをとることができません。
また、私たち聴者は、知らず知らずのうちに耳からたくさんの情報を得ています。職場で、仕事をしながら他の人の会話が耳に入り、「今度、人事部の○○さんと総務部の○○さんが結婚するのか」など、自分に対して言われたことではなくても色々な情報を得ることができます。
でも、聴覚障がい者はそのような耳からの情報が入らないので、情報が不足しているということを理解する必要があります。
3)守秘義務
これは講習会でも言われていると思いますが、手話通訳をしていると通訳をする対象者のいろいろな個人情報を知ることになります。家族関係・健康状態・場合によっては経済状況も知ってしまいます。でも、それについて口外してはなりません。
「手話通訳士倫理綱領」の第4条にも書いてあります。
4)相手に伝えたい、という気持ちを持つこと。
以前手話サークルの総会で、手話通訳を目指して勉強中の方が2名発表しました。
1人は登録試験を間近に控えた通訳コースの生徒さん。もう1人は、まだ手話講習会の中級の生徒さん。
手話の技術からすれば、当然通訳コースの生徒さんの方がレベルは上です。でも、中級コースの生徒さんの方が心に伝わる手話をされていて、その差があまりにはっきりしていて驚きました。
中級コースの生徒さんは技術はまだまだでしたが、その場にいるろう者に「何とかして伝えたい!」という気持ちがあることがハッキリとわかりました。私の1)の内容と矛盾してしまいますが、知識や技術は当然大切ですが、それがすべてではないと思います。「本当に相手に分かってほしい」「相手に伝えたい」そういう気持ちがとても大切だと実感しました。
5)自分が伝えて満足するのではなく、本当に相手に伝わっているのかを常に考えること。
地域の登録手話通訳者になったばかりのころは、ともかく耳から入ってくる日本語をもらさず表出することに必死でした。
でも、自分が伝えたつもりでいても、相手に伝わっていなければ意味がありません。「この表現で伝わるだろうか」「こういうやり方はどうだろう」常に自問自答し、工夫を重ねることが大切だと思っています。答えは一つではないし、いくらでも工夫の余地があるということが、大変でもあり、手話通訳の面白さでもあると思っています。
以上、手話通訳士の心構えについて、自分なりの考えを書かせて頂きました。手話通訳士の先輩方を差し置いて、私がこのようなことを書くのは、気がひけます。でもHPにお問い合わせがあったことをきっかけに、書いてみることにしました。手話通訳士を目指す方、手話学習中の方の参考になれば嬉しいです(^-^)